霊視/スピリチュアルカウンセラー/スピリチュアルカウンセリング [オフィス スピリット911]





―― Vol.28 死に方 ――

 「もう、俺は死ぬから・・・」。その人は小さな声で自分に言いました。「生きていてください」と嘆願しましたが、手を握った瞬間、その願いは無意味だとわかりました。「現世ではこれで最後だけど、また会えますよね」。横で聞いていた奥様は、泣き崩れていました。しばらく無言で手を握りながら、魂に語りかけました。その魂は優しく安らかで、自分が癒されているようでした。別れ際「ありがとうございました」と頭を深く下げ病室を後にしました。病院の玄関まで送ってくださった奥様は、「本当なら、あと10年は生きられるのに・・・」とおっしゃいました。

 体調の変化が起こり始めたのは、今年初め頃でした。4月初旬に検査入院で入ってから時々お見舞いに行きましたが、原因がわからないまま、その人は衰弱していきました。それでも自分が会いに行くと、相変わらずの空元気で色々な事を話してくれました。

 自分は身近な人で尊敬している人が二人います。一人はスタッフの熊田さんです。彼のアドバイスなしには今の自分はないし、これからもだと思います。何しろ本来の自分は、良くも悪しくもキツイ利己主義者ですから。そしてもう一人、尊敬している人がKさんです。20年以上の付き合いのKさんは、曲がったことが大嫌いで情にもろい、昔気質の頑固な鍛冶職人です。毎週のように仕事が終る頃、Kさんの工場に押しかけては、夜中まで話を聞かせてもらっていました。何気ないKさんの一言一言が、自分にとっての宝物のようでした。

 病名が判明したのは、7月に入ってからでした。筋ジストロフィー。時間の経過と共に筋肉が破壊されていく病気です。特効薬や治療法はなく、死を待つ病気だそうです。Kさんの病状の進行は特に早く、日に日に衰弱していきました。それでもKさんはご家族の心配をよそに、「治ったらまた仕事するからな」と言っていました。

 7月20日、その日サポートプランが終った後、どうしてもKさんに会いたくなって、病院に向かいました。いつもの病室に姿がないので看護士さんに聞いたら、「今日容態が急変して集中治療室に移動しましたと」言われました。さすがにそれを聞いて、まずいと思いましたが、いつもの調子で、「Kさん来たよ!」と元気を装い病室に入って行きました。

 「どうしてくれるの・・・あんたが来たからこの人死んじゃうよ・・・」。奥様にいきなり言われました。自分が病室に入る直前に、Kさんが奥様に言ったそうです。「もう誰にも会いたくないけれど、最後にジョージ君だけにはに会いたいなあ」。そこに突然自分が入って来たので、お二人共すごく驚いたそうです。奥様はしばらくしてから、「来てくれて、ありがとうね」と言ってくれました。そして、「ジョージ君が来るまではすごく苦しんでいたのに・・・」ともおっしゃってくださいました。酸素マスク越しにKさんは、「もう、俺は死ぬから、工場にある欲しい物を何でも持っていってくれ」と言いながら、右手を差出してくれました。「生きていてください」と言いながら、Kさんの手を握りかえしました。

 Kさんは喉を切開して人工呼吸器を取り付ければ、声は出なくなるけれど、10年は生きられるそうです。でも、ご家族が説得しても、Kさんはそれを選ばなかったそうです。赤の他人でも、自分にとっては人生の師匠のような存在のKさん。たとえどんな形であれ、生きていて欲しいと思いましたが、それは我侭なのかもしれません。

 7月27日午前4時、Kさんは眠るように亡くなったそうです。翌日のお通夜に行く途中、渋滞につかまり、遅刻しそうなった時に、Kさんの声が聞こえました。「待ってるから急がなくていいよ」。さらに翌日のお葬式にも遅刻しそうになって、同じ声が聞こえました。いつもKさんの工場に行く時に、電話で聞いていた同じ声でした。奥様にそれを話したら、「あんたはいいね・・・私も聞きたいよ」と泣きながら言われました。

 火葬場に向かうはずの霊柩車が、突然方向を変えて細い道に入って行きました。その道は、いつも自分がKさんの工場に行く時に通る道でした。霊柩車は工場の前で一旦停車して、ホーンを長く鳴らしました。Kさんの居場所だった工場。Kさんがいつものように、「何しに来たんだ」と無愛想に、工場の中から出てくるようでした。

 死に方まで自身で選んだKさん。Kさんの亡くなり方をつぶさに見ていて、人は生きてきたように亡くなっていくのだということを、再認識しました。そのことを見せてくれたことに、感謝しています。死は生の一番最後の部分だから、ちゃんと生きてきた人は、ちゃんと死ねるのだと思いました。悲しいけれど、現世ではもう会えません。でも、いつかまた必ず会えます。それまでは、天空にいるKさんに怒られ叱られ、生きて行こうと思います。

2006/08/04